4回目となる「福井翻訳ミステリー読書会」は、第3回に続きオンラインにて2020年8月29日(土)に開催いたしましたので、すっかり遅くなりましたが簡単ではありますがレポートを記しておきたいと思います。
課題書は『災厄の町(新訳版)』エラリイ・クイーン 著/越前敏弥 訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)
実は世話人二人ともクイーンどころか本格ミステリそのものに疎く、
「クイーンを課題書にしちゃって本当に大丈夫?!」
「ガチのミステリファンに滅多刺しされない?!」
なんて不安に思っていたところ、翻訳者の越前先生がゲストで参加して下さる事になりどれだけ安心した事でしょうか(笑)。
さて、当日は世話人とゲストの越前先生を含め合計12名での開催となりました。
生粋のクイーンファンや本格ミステリファンの参加者に圧倒されるのでは無いかとも思っていたのですが、今回初めてクイーンを読むという方も含めてクイーンは初心者だという参加者が半数以上を占めました。
なので、割と純粋に課題書そのものに関する感想が多かったので、その一部をご紹介いたします。
・初めてクイーンを読むけど、本作は読みやすかった。
・クリスティっぽい。
・最後まで犯人が分からなかった。
・途中で犯人については分かった。
・裁判の場面が印象的だった。
・事件が起こってから小さな町の中でライト家が孤立していく様子というのは、どこも同じで分かりやすい。
・他のクイーンの作品との違いを感じる。
・最後の謎解きの部分が難しく、なかなか理解しづらかった。
・舞台となるライツヴィルの様子や、町の人たちがライト家に対して噂したり怒ったりする様子が興味深く読めた。また、そういった様子は現代にも通じるものを感じた。
などといったところが、ざっくりとした主な感想として上がりました。
犯人について途中で分かった方と分からなかった方と、二分するような結果になったのですが、犯人が分かったという方もどの時点で分かったかそれぞれ違っていたのも面白かったです。
なお、越前先生からは、「クイーンは裁判のシーンを本書で描きたかったのではないか」、「影の主役はライツヴィルという町そのもの」といったお話も。
クリスティっぽいという意見には何人かの方も賛同されていて、ライツヴィルをイギリスの田舎町のような雰囲気で描き、「クリスティが描いたようなネタであってもクリスティとは違うものをというところを見せたかったのでは」といった考察もなされました(わ、真面目な読書会っぽい(笑))。
また、エラリイが「偽名を使っているけどこれってバレないの?」という問いには、「エラリイもクイーンもそもそも名前としては殆ど使われる事は無く非常に珍しいので、バレないというのはまずあり得ないが、舞台が1942年と第二次世界大戦時下ではあるけど、非常に長閑な町での出来事なので」との事。
うん、その辺りは小説として描くためにスルーって事ですね(笑)。
ところで主人公のエラリイについての人物描写が殆どないので皆さんどういった印象をもっているのか気になりました。
まず、〈国名〉シリーズを読んでいる人からは推理マシーンだったエラリイも人間味が出るようになっており、それまでのエラリイとは印象がだいぶ違って見えるようで、〈国名〉シリーズの頃のエラリイなら早い段階で犯人も分かったのではないかとの声も。
これにはエラリイがパットに夢中になって推理どころでは無かったのではといった意見も(笑)。
逆にクイーンを今回初めて読むといった方は、エラリイが最初は結構年上なイメージで読んだという方や、イケメンで若いイメージで読んだという方も(角川文庫版の〈国名〉シリーズの表紙イラストの影響大ですね(笑))。
気障っぽいセリフや行動も見られるので、気障な男という印象もありましたが、〈国名〉シリーズからするとこれでもだいぶ柔らかく、そして大人になっているそうなので、その辺も含めてエラリイ・クイーンが登場する作品を読みたくなった参加者も多かったようです。
また、エラリイ以外の登場人物についてですが、やはりジムに対する風当たりが強かったですね。
「そもそもライツヴィルに戻ってくるなよ」
「戻ってくるなら色々始末してからにしろ」
「とにかく許せない」
「よく平気な顔で戻って来れるな」
「金を無心するな」
などなど辛辣な意見が多数。
いいところを見せる部分もありますが、それを差し引いてもジムはダメ男として認定されておりました(笑)。
その他の登場人物についても、ノーラに関しては理解できたり共感できる部分もあるという方もいれば、共感は出来ない、もしかしたら一番怖い人物かもという意見も。
パットについては、カーターに見せつけるようにエラリーといちゃいちゃするような場面はありますが、ジムとノーラ、そしてライト家を守ろうとする姿が健気。
そして可愛いとも(笑)。
また三姉妹の長女であるローラが、実は一番人物像がしっかりしてていい人なのではといいった意見も。
カーターについては、検察としての立場ながら実は裏ではライト家を守ろうとしていた様子が描かれる場面に男らしさを感じたという感想も。
付き合いだしたばかりのパットは突然町にやってきたエラリイといい感じになっているし、事件後は検察とライト家との間で板挟みになっている、結構可哀想なキャラクターなのだったかも知れません(笑)。
そうそう、日本では過去に『配達されない三通の手紙』というタイトルで映画化されており、その事について原作との違いや役者についてなど越前先生からお話が。
こちらも気になるので観てみたいものです。
さて、この『災厄の町』から始まる〈ライツヴィル〉シリーズですが、越前先生もエラリイが大人になっていく様子が描かれいるからこそ好きだと仰っていました。
『災厄の町』の新訳を手掛けた後も、『フォックス家の殺人』と『十日間の不思議』の新訳を手掛けたいと出版社にプッシュされていたそうで、それが実現し、ようやく『フォックス家の殺人』の新訳版が今年の12月に、『十日間の不思議』の新訳版は来年刊行される事になったそうで、みなさん、今から楽しみにしていてください!
なにはともあれ、クイーンを初めて読んだという参加者もそうでない方も、他のクイーンの作品を読んでみたくなったという意見で一致。
そんなクイーン初心者に、コテコテなミステリーが読みたい方は『ローマ帽子の秘密』から始まる〈国名〉シリーズを。
中ぐらいな論理的な謎解きが好きな方には『Xの悲劇』から始まる〈ドルリー・レーン〉四部作を越前先生もお勧めしていたので、クイーン初心者としては参考にしたいところですね。
また、クイーンを知る上で参考になる図書の紹介も。
『エラリー・クイーン パーフェクトガイド』(絶版)
『エラリー・クイーン論』
『エラリー・クイーン 推理の芸術』
などの他に、日本での近刊予定である『BLOOD RELATIONS』は、著者のフレデリック・ダネイとンフレッド・ベニントン・リーの書簡集となっており、二人の仲が相当悪い中で傑作が生まれる様子が分かり興味深いとお勧めされていました。
読書会そのものは予定より30分程オーバーしてしまいましたが、それだけ越前先生のお話も面白く、また、楽しかったのは参加して下さった皆さんのお陰です。
それから今回開催するにあたり、以前に本書を課題書に読書会を開催していた大阪読書会と金沢読書会の世話人様から資料を提供していただきました。
また、参加者の中から〈ライツヴィル〉の地図を提供して下さった方も。
今回、レジュメ作成はサボろうかとも思っていた世話人としては大助かりでした(笑)。
あらためて御礼申し上げます。
さて、次回の福井読書会は10月31日に『弁護士ダニエル・ローリンズ』を課題書に開催と先日告知したところですが、お陰様であっという間にお席が埋まりました。
オンラインでという事で気軽に遠方からもご参加いただけるのも嬉しい限りです。
その後の予定としては、このままオンラインでやるにせよ、対面での開催を再開するにせよ、雪が降る前に一度開催できればなと思っておりますので、時折当サイトもしくは世話人のtwitterをチェックしていただけると幸いです。